「哲学者に何が残されているか?」という問題は現代人への問い

もう10年もすれば、人間のする仕事はなくなり悲愴感をあらわにするコメンテーターもたくさんいます。あるいは台頭してくるIT技術への反撥、たとえば、家でパソコンばかり眺めている者をひきこもり扱いし、歩きスマホしている若者に対し眉間にしわを寄せる人も多いですよね。

ですがこういうことは歴史をふりかえれば何度もあったのですよね。産業革命は人間を重労働から解放し、もっと前ですと稲作技術にしても人間を狩猟採集という不確かな収穫から安定したものへと変えたのですから。にもかかわらず、「こんなのがあるから人間は堕落するんだ」といって車をハンマーでぶち壊している写真が世界史の教科書にありましたが。

ITは人間を退屈、ルーティーンから解放することは確かですね。そうなると新たな価値を生み出せるものでしか存在しないに等しいということになります。どんな優秀なビジネスマンであろうとそれを糾弾する人は、いわれたことを卒なくこなすことが関の山かも知れないです。そういうことを考えながら私もこうした幼稚な文を書いているわけです。

しかし20世紀最大の哲学者のひとりマルティン=ハイデッガーも当時サイバネティックスと呼ばれていた人工頭脳に対し、それが人間の創造・芸術までも奪うと嘆き糾弾していたのです。

 ①No prophecy is necessary to recognize that the science now establishing themselves will soon be determined and steered by the new fundamental science which is called cybernetics. ②This science corresponds to the determination of man as an acting social being. ③For it is the theory of the steering of the possible planning and and arrangement of human labor. ④The development of philosophy into the independent science which, however, interdependently communicate among themselves ever more markedly, is the legitimate completion of philosophy. ⑤Philosophy is ending in the present age.

(私の訳) 

①予言を待つまでもなく、現代の諸科学をまもなくその装置の仕事において規定し操縦するのはサイバネティックスという新しい基礎科学であろう。②この科学は人間を行動する社会的要員として決定するといえる。③というのも、この理論は可能な計画を操作し人間の労働を調整するのだ。④哲学は自立した科学へと変わるがますます相互連関するようになり、それは哲学の見事な完結に等しい。⑤哲学は今終わりを迎えつつある。

英文のポイント

これはハイデッガーの「哲学の終わりと思惟の使命」の一節から英訳されたものです。なんとセンスのある文でしょうか。いわゆる無生物主語が見事に使いこなされていますね。

✱ いわゆる無生物主語そして名詞構文について

④の構文は読むのに労力がかかりそうですね。主語が名詞構文といわれて長いのですが、これは文に直しますと

Philosophy develops into the independent science.

となります。そして関係代名詞節はwhichにthe independent scienceを代入するとよいのですね。しかもその内部にhoweverがあることから上のセンテンス化したものとは逆接の関係にあります。

関係代名詞節以降のis以下は上のセンテンス(「哲学は進歩して独立した科学となる」)についての題術となります。

英文は文と文でなく節と節の関係が大事であるゆえんですね(長い名詞構文は節に直しましょう)。

私見

この引用を読む限りではハイデッガーはIT(サイバネティックス)革命を18世紀の産業革命の延長ような機械にしか見ていないようですね。事実、別のところでは「言葉はニュースになり、芸術は情報になる」といっています。

これまでは<動物/人間><機械/人間>という明瞭な対立において人間はアプリオリにそして根拠もなく優位に置かれてきました。しかしこの対立の境界をなくす、否、本来なかったことを露呈するのがITの特徴にも思えます

モバイルとして気楽に携帯できるスマホは計算処理能力ではかつてのリクルート事件で出てきたスーパーコンピュータ並みのものらしいです。それを有効活用できる人もいます。しかし、動物のような人間、機械のような人間が続出してきたのも現代の特徴といえましょう。

ハイデッガーといえば、選挙の応援演説をしたことでナチスに加担したことで知られていますがこれは象徴的だと思います。「真理は秘密投票ではなく、喝采で決まる」というようなことをいっていたと思います。