世界は決定されているのか、それとも偶然の連鎖?

科学の好きな人、論理的な人は暗黙に神を前提にしているのかもしれません。たとえば、推定とされているアインシュタインのIQは170で人類史上でベスト10にはいるとされています。そんな彼が、世界はどのような方向に進み完結するのかはあらかじめ決まっているというのです。「神はサイコロを振らない」という有名なセリフです。

あらゆる事態に確率はなく、0%または100%ということです。確率を求めるのは私たちの知性がまだ未熟で隠れた変数というのを発見できないというわけですね。アインシュタインの導いた「光速より速いものはない」という法則も、もともと信仰です。「神は光とともにありき」(ヨハネ伝)。

しかしこうした宗教的妄信が新たな認識を生み出すことは往々にしてあるのです。原子爆弾の製造に関してもいえます。そのことについての興味深い英文があります。

①The founder of cybernetics, Norbert Wiener, who was involved in the Manhattan Project, said that what was treated in the counterintelligence community as the real secret was not the manual for making the atom bomb; it was the fact that it had already been made. ②When both Germany and Japan were developing of making the bomb, they would have succeeded in its production had they discovered that it was possible. ③The notion that the natural world comprises mathematical structure is also an example of ‘theoretical faith.’

 

私の訳
①サイバネティックスの創始者で、マンハッタン・プロジェクトに関与したロバート=ウィナーがいったことは、防諜上極秘とされていたのは、原子爆弾の製造法ではなく、それはすでにつくられたという事実である。②ドイツと日本が原爆を製造しようとしているときに、それが可能であるということが発覚していればそれに成功していただろうに。③自然界が数学的構造を持つというのも”理論的信”の一例である。

英文のポイント

 報告構造

①のセンテンスは度々英論文で目にする報告構造と呼ばれるものです。

基本形は S  V  名詞節(that節

ですが、特殊形としては

According to ~  S V ……

As S’  V’  ……, S  V …

In one’s opinion,  S V …

などもあります。海外の大学を希望するならこういう構文に触れる回数を増やしてほしいですね。おさえるべきところは

 

a)誰の意見か          ロバート=ウィーナー

b) 意見内容に対する筆者の立場  中立

c)意見内容         「防諜上極秘にすべきは原爆の製造方法よりもすでにつくられたという事実」

 

✒ b) で筆者の立場を中立と判断しましたのは動詞saidだけに着目したためです。しかし、主語Norbert Wienerには同格のThe founder of cyberneticsと関係代名詞節が挿入の形で詳細されていますね。ですからthat節の内容にはかなり根拠があると捉えることもできます。

リポート動詞が示す、リポート内容に対する書き手の立場

 書き手の立場        動詞の実例
 リポート内容を肯定  admit / acknowledge / confess / 「~だと認めている」

realize / understand 「~だと理解している」

point out 「~だと指摘している」

reveal / show / indicate / demonstrate / prove 「~を明らかにしている」

 リポート内容を否定  claim / maintain / assert / insist  「~だと主張している」

believe 「~だと信じている」 assume 「~だと思い込んでいる」

 リポート内容に中立  say / state  「~だと述べている」

 

 変則型の仮定法

仮定法では基本形で用いられるifが省略されることがあります。その場合、助動詞またはbe動詞wereが前に出てきてその後に主語Sが続きます。

この辺りは受験を経験してきた人なら当たり前でしょう。しかし②の長文内での主節を仮定法ととらえられる人はおそらく国立大学のAランクに入れる人でしょう。私は日本語版を読んでいたのでわかりましたが、そうでなければ分からなかったと思います。

この仮定法にはまずコンマがついていません。それは前のwhen以降の副詞節にコンマをつけることで次元の違いを打ち出すためです。仮定法内にもコンマをつけるとwhen節と主節そして仮定法過去完了が同次元になってしまうからです。when節はここでは背景設定となっているのです。

コンマの有無って結構大切なのですよ。それによって英文は立体化され日本語より論文においては分かりやすくなると私は思います。

 仮定法の根本的な役割

仮定法は修辞(レトリカル)表現です。そしてすでに述べたことをより効果的に伝えるための技法なのです。

たとえば

TV is more suitable for family entertainment than the radio, precisely because it makes so few demands, leaving one with plenty of attention to give to the noisy grandchild or talkative aunt. If the programmes required greater concentration, one would resent the distractions which inevitably attend the family circle.

「テレビはラジオより一家団欒にふさわしい、というのもまさに、テレビの場合には見る側に対する要求がほとんどなく、十分な注意力をうるさい孫やおしゃべりな叔母に向けることができるからである。もしもテレビ番組を見るのにもっと集中力が必要であったとしたら、家族の輪につきものの、注意をそらされる色々な原因に対して憤りを感じることになるだろう。」

ここでは二つ目の節が仮定法過去で書かれていますがこれは一つ目の節のいいかえです。これによってリアルな場面ともう一つの存在しない仮の場面との対比がリアルな場面をくっきり浮かび上がらせることができるのです。

ティーブレイク

神を前提にするというのは、世界は決定づけられているということになります。つまり「答えがある」というわけですね。この論文がいうように実際に原子爆弾がすでに製造されていたという事実が漏れていたらあの戦争の結果は大きく変わっていたでしょうね。

それについて私が思ったのは、17世紀のオランダの哲学者スピノザです。彼もまた決定論者ですが、人間は世界内存在なので世界のすべての摂理を知ることはできないというのです。つまり鳥瞰することは不可能なのです。ただ知ろうという意志は、人間を憤懣と恐怖という自然感情またはそこから派生する狂気からその時だけは解放してくれます。

ところが、ハイゼンベルクという物理学者は「不確定性理論」、つまり世界の事象を同時に知ることは、人間の知性云々でなくはなから不可能と緻密な数式を立てて証明したのです。この数式から、自然界は人間が考える因果関係はなく本質的に偶然が作用しているという命題を導くことができないでしょうか。

アインシュタインとハイゼンベルグという超ハイレベルな戦いに私が介入することはできませんが、自然が導く自己生成、ようするに「なりゆきの世界」に貶められないようにスピノザの思考の態度をとりたいものです。それが人間の定めだからです。

✳ この記事はnoteで投稿したものを加筆・修正したものです。